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松山地方裁判所 昭和27年(行)9号 判決

原告 洲之内源一郎

被告 愛媛県農業委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「松山市久枝農業委員会が別紙目録記載の農地につき定めた農地買収計画に関する原告の訴願に対し、被告のなした訴願を棄却する旨の昭和二十七年六月三十日付裁決を取消す訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、

一、別紙第一物件目録記載の農地(以下本件第一農地と称す)は原告が特有財産として古くからこれを所有し、別紙第二物件目録記載の農地(以下本件第二農地と称す)は、もと原告の父長次郎の所有であつたところ、昭和二十二年四月二日長次郎の死亡により原告が家督相続によつてその所有権を取得したものであり、且、右各農地は父存命の頃から、他人に賃貸耕作させていた小作地であるところ、松山市久枝農業委員会は、原告が昭和二十年十一月二十三日以前から大学教授として仙台市に居住しており、久枝地区に住所がないためこれを理由に、昭和二十七年三月十二日原告を不在地主として、本件第一、第二の各農地につき買収計画を樹立した。そこで、原告はこれに対し法定の期間内に異議の申立並に訴願をなしたが、被告は昭和二十七年六月三十日付で右訴願を棄却する旨の裁決をなし該裁決書は、同年八月二十六日原告に送達された。

二、然し、右裁決は左の理由によつて違法である。

すなわち、本件買収計画前久枝地区農地委員会は、原告を父長次郎と同一世帯にある者と認め、長次郎の世帯家族に加えて、原告所有の小作地と長次郎所有の小作地(祖父源蔵名義で残つているものも含む)とを合算し、その面積と、法で許された保有小作地の面積とを比較対照し、これを超過する部分の小作地を買収する計画を定め、その計画の下に買収すべき農地と保有地として残すべき農地とを勘案して決定し、県農地委員会もこれを承認し、原告等も右計画に対し些かも異議を述べなかつたので、昭和二十二年三月三十一日付、同年十月二日付、同年十二月二日付各買収令書により、原告所有の小作地、八反七畝三歩、長次郎所有名義の小作地六反六畝二十二歩、祖父源蔵名義で残つている小作地一反四畝二十二歩合計一町六反八畝十七歩が買収され、その結果、本件第一、第二の各農地が、在村地主の保有小作地として残されたのである。およそ、農地を買収するには市町村農地委員会の定める買収計画によらなければならないことは自創法第六条第一項の明定するところであり、しかもその計画に基き法の定める凡ての手続を終り買収を実施した以上、最早軽々に当初の計画を改訂或は変更することは、法の許さないところである。すなわち、原告が家督相続前に所有した小作地面積は九反九畝十三歩、長次郎の生前所有した小作地面積は公簿上源蔵名義のまゝになつているものを加えて、一町二反八畝十七歩であるから、個別的に買収すれば、後者から在村地主の法定保有面積七反を差引けば、残り五反八畝十七歩だけを長次郎の所有小作地から買収し、七反は残すべき計算になるところ、世帯単位に買収した結果、原告所有地と合せて法定面積が保有地として残され、長次郎の所有地からは八反一畝十四歩が買収される結果となつた。だから今原告を不在地主として原告所有農地を全部買収すると、長次郎の保有小作地は法定面積から二反二畝二十七歩だけ削減されることになり、換言すれば、それだけ超過買収をした結果になる。この事実から見ても在村地主の保有小作地として残された本件第一、第二の農地をその後に至つて原告を不在地主として買収することは、当初の買収計画を根本的に樹直すに均しいことになり、違法である。よつてこれを認容した訴願の裁決も違法であるから、その取消を求めると述べ、

被告の答弁に対し、本件第一農地は買収もれの農地ではなく、第二の農地も原告の相続後、当初の計画において、久枝地区農業委員会は原告を在村地主と認めて買収しなかつたものであると述べた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告請求原因事実中一、の事実及び本件買収計画前、昭和二十二年中三回に亘り原告主張の小作地につき買収計画が樹立され、買収が実施されたことは認めるが、本件買収計画並に訴願裁決は違法ではない。すなわち(一)原告は昭和二十年十一月二十三日以前から大学教授として仙台市に居住しているから、原告の住所は仙台市にある。従つて本件第一の農地はもともと不在地主の小作地であつたのを、当時の久枝地区農地委員会において買収しなかつたものである。また(二)本件第二農地は、昭和二十二年四月二日原告の父長次郎の死亡により原告が家督相続により所有権を取得したから、これまた不在地主の小作地といわなければならない。よつて、原告の請求は理由がないと述べた。(証拠省略)

三、理  由

本件第一の農地が原告の特有財産として、古くから所有していること、本件第二の農地がもと原告の父長次郎の所有であつたところ、昭和二十二年四月二日長次郎の死亡により原告が家督相続によりその所有権を取得したものであること、右各農地が小作地であること原告主張のように、久枝地区農地委員会において、昭和二十二年中前後三回に亘り、原告及び長次郎所有の小作地合計一町六反八畝十七歩に対し買収計画を樹立し、買収がなされた結果本件第一、第二の農地が残されたこと、原告が昭和二十年十一月二十三日以前から大学教授として仙台市に居住しており、久枝地区に住所を有しないこと、その後昭和二十七年三月十二日右委員会は、原告を不在地主として本件第一、第二の各農地につき買収計画を樹立したこと原告がこれに対し、法定期間内に、異議申立並に訴願をなし、被告が昭和二十七年六月三十日付で、右訴願を棄却する旨の裁決をなし、該裁決書が同年八月二十六日原告に送達されたことは当事者間に争のないところである。

そこで、本件買収計画が違法であるか否かについて考究するのに自創法第三条第一項第二号によれば在村地主の小作地は、法定面積を超える部分だけを買収し、法定面積の範囲内においては地主をして小作地を保有せしめようとするものであり、同法第四条第一項により右法定面積は世帯単位で計算すべきことを明定しているが、これは我国農村の農業経営の実体が世帯単位で行われていることにかんがみ、同一世帯内の一人が農地を所有する場合と、各世帯員が農地を所有する場合とを区別することなく同一に取扱う趣旨であると解すべきであるから、同一世帯中の一人が小作地を所有する場合に比し、数人が小作地を所有する場合の方が、当該世帯にとつて不利な結果を招くようなことになつては、法の目的に沿わないものと考えなければならない。右の見解の下に本件を見ると、原告の主張するように久枝地区農地委員会が原告と父長次郎とを同一世帯にあるものとして、本件買収計画前、すでに右両名の所有小作地を合算し法定保有面積だけ残したうえ残余につき買収計画を樹立したものとすれば、その後に至り再度原告を不在地主として、右保有面積から原告の所有小作地を買収すると原告主張のとおりそれだけ法定保有面積が削減されたことになることは明白である。これに対して長次郎だけが右世帯中の所有者である場合は、法定面積は依然として削減をうけることがないのであるから、かくては同一世帯中の所有者の多寡によつて別異の結果を招くことになり、一世帯につき法定面積だけは小作地を保有させようとする法の趣旨に反する結果となるから原告主張のように、一度世帯単位で在村地主の小作地の買収計画が樹立された以上そのうちの一人が不在地主となつたことを理由に、当該所有者の小作地につき再度買収計画を樹立することは違法であると解するのが相当である。しかしながらこれも同一世帯中の他の所有者が在村していること、本件についていえば長次郎が在村している場合に、かく解すべきであつて同一世帯中の所有者が一人も在村しなくなつた場合は、法の企図する法定面積だけでは小作地を保有させるべき在村地主がすでに存在しないのであるから、右と同一に解することはできない。換言すればこのような事情の変更がある場合は当該農地が不在地主の小作地に該当すれば、前の買収計画並に買収の手続が終了していてもその後の事実関係に基いて再度買収計画を樹立しても何等違法でないといわなければならない。ところで長次郎は昭和二十二年四月二日に死亡し、その所有小作地は原告が家督相続によつて所有権を取得したのであり、且、原告は昭和二十年十一月以前から大学教授として仙台市に居住し、久枝地区には住所を有しないのであるからかりに原告が父長次郎と同居しなくなつた当初は自創法施行令第一条にいう就学等特別事由があつたとしても、大学教授として仙台市において生計を営んでいる以上本件買収計画の樹立された昭和二十七年三月十二日当時においては、自創法第四条第二項の「農地の所有者で第二条第四項に規定する特別の事由によりその所有する農地のある市町村の区域内に住所を有しなくなつたもの」には該当しないものと解すべきであるから、本件買収計画当時は原告は不在地主であつたと認める外はない。そして凡そ買収計画は遡及買収の場合は別として、計画樹立当時の事実関係に基いて定められるべきであり、過去に計画樹立行政庁において原告を在村地主と認めたというような事実は後の計画自体を拘束するものでないから結局本件買収計画当時は、本件農地についての在村地主は存在しなくなつていたことになり、従つて前記事情の変更があつたものというべく、同時に原告は不在地主であるから本件買収計画は違法ではないといわなければならない。従つてこれを認容した被告の訴願裁決も結局違法のかしはない。

仍て、原告の請求は理由がないから棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東甲子一 橘盛行 荻田健治郎)

(目録省略)

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